では、老舗における「変化させていない伝統」の継承と、「時の流れに対応した変化」に基づく経営革新は、現在の中小企業においてどのような形でみられるのでしょうか。

 それを理解するために業歴100年を超える食酢製造業者A社の取組をみていきましょう。

 A社は、1876年に創業し、現社長で4代目にあたります。同社では創業以来、「酢造りは酒造りから」「微生物を考える」をモットーとした企業理念に基づき酢造りを行ってきています。そして、そうした酢造りに注力する姿勢は従業員にも自然な形で共有されています。

 一方で、A社では、顧客ニーズの変化に対応する形でさまざまな経営革新を行っています。

 その1例として、A社ではそのまま飲んでおいしい酢である「デザートビネガー」という新しいジャンルの商品群を先行的に立ち上げたことで知られています。

 また、A社では酢の小売専門店を百貨店に出店し、「デザートビネガー」などの自社製品を提供しています。この小売専門店はアンテナショップの機能だけでなく、同社の酢づくりの独自性を訴える店としても機能しているのです。

 さらに、製造面では、衛生面の工夫、配慮を強化して品質管理を重視する新工場を建設しました。

 このようにA社では、本業重視、品質本位の企業理念を変化させていない伝統として継承しつつも、顧客ニーズの変化に合わせて新製品を開発したり、小売業に進出して販路開拓を行ったりするなどの経営革新を積極的に推進しています。このように老舗にみられる経営革新の取組みは、現在の企業においても形を変えてみられているのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)