では、産地に立地する企業が経営革新を行うためにはどのような取組みが求められるのでしょうか。

 ここで島根県西部に立地する瓦製造業者A社の事例をみていきましょう。

 石州瓦は江戸時代初期に誕生し、良質の粘土と高い焼成温度によってもたらされる品質の良さを強みとしており、釉薬を高温にて焼成することによってもたらされる赤褐色の色合いでも知られています。しかしながら人口減少やハウスメーカーの台頭などにより瓦産業を取り巻く環境は厳しい状況にあります。

 A社は、1806年創業の石州瓦製造業者で、創業以来超高温による瓦の焼成を長時間かけて行っていることから、極めて頑丈な瓦の製造が可能となっています。

 9代目にあたる現経営者は、創業200年を迎える2006年に製薬会社を退職し、妻の家業であるA社に専務として入社、2012年に社長に就任しました。

 現社長は伝統的な製法を継承し高品質なものづくりは追求しつつも、時代の変化に対応し顧客の細かな要望に応えるべく新製品開発による新市場の開拓に取り組んできました。例えば、石州瓦の趣をタイルとして活用したり、瓦を器として生かすための直火に耐える瓦食器を開発したりしています。こういった高付加価値製品の売上は、A社の売上全体の4分の1程度を占めるに至っています。

 このように産地企業が経営革新を遂行するには、既存事業がもつ伝統的な強みをしっかりと継承しつつも、伝統に安住することなく時代の変化に対応した新たな発想を製品開発に取り入れることが求められるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)