●大人の手の大きさを読んだ

徒手空拳から、大きなチャンスを掴んだ人物を考えてみよう。

昔、スコットランドのダムファーリンという町の青果市場でのこと。ある八百屋の店先には真っ赤に熟れたサクランボが、山と積まれていた。

 すると年の頃は、10歳ぐらいの少年が、そのサクランボをじっと見つめている。欲しいけれども買ってもらえないのだ。母が側にいるが買えないのである。

 少年の眼差しを察した店主は、賢そうな少年に言った。

「坊や、ひとつかみあげるから持っていきなよ」

「うん、おじさん、ありがとう」

 礼は言うが、何回言われても、自分ではつかみ取ろうとしない少年に、店主はシビレを切らし、とうと

う自分の手でひとつかみ取ってあげた

「遠慮するなよ、ほら、これ持っていきな」

こう言って、少年の帽子に入れてくれた。

あとで母親は、「どうして自分ではとらなかったの?」と訊いた。

「だってさ、僕の手よりおじさんの手が大きいんだもん

 この少年こそ、のちにアメリカに渡り鉄鋼王として大成功した、アンドリュー・カーネギーの少年時代のひとこまである。

 

●栴檀は年齢を経ても栴檀だ

かわって日本には、こういう少年の話はないのか。それがあるのだ。

家が貧乏で、高級魚を高級店に直接売り込む方法で、じわりと独立自立の生活設計を考えていた少年がいた。利幅があり儲かったそうだ。やがて縁を得て帝国ホテルの皿洗いに就いた。

最高責任者は、当代切っての料理の達人、村上信夫さんである。まず名前を覚えてもらう。

当たり前のことをしていたら、到底名前なんか覚えてもらうわけにはいかない。

そこで村上さんの行動をみていると、トイレに小用を足しに出かける時間をつかんだ。

そしてある日のこと、自分も村上さんに行動を合わせ小用を足しに出かけた。ばったり顔を合わせた。すると元気よく挨拶をした。

「お疲れさまです」

何回か繰り返すと村上さんも、あの元気のいい少年は何という名前かと思うようになった。

そして、その日はとうとう来た。

 「お疲れさまです」

  すると、「きみの名前は何と言うんだ」と訊かれたそうだ。

  これが三国清三なる人物に、幸運の女神が微笑むきっかけになったのである。

  やがて三国は、フランス大使館の料理人として推薦を受け、料理をするようになるが、この料理を契機に、「三国が作ったフランス料理」が有名になったものだ。

  いまでは「ミクニヨコハマ」(横浜)や、「オテル・ドゥ・ミクニ」(東京)のオーナーシェフとして大活躍している。

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二人の有名人の少年時代を紹介したが、思わずこんな言い伝えを思い出した。

「栴檀は双葉より芳し」。そういえば、ニューヨークのカーネギー劇場は、鉄鋼王のカーネギーの寄付でできたものだ。栴檀は、年輪を経ても栴檀である。