では、新たな視点をもつイノベーション人材が、地域振興の担い手として活躍するためにはどのような取り組みが求められるのでしょうか。イノベーション人材を地域外から受け入れた事例に沿ってみていきましょう。

 長野県小布施町は、人口11,400 人の小さな町で、葛飾北斎の肉筆画を展示する北斎館を中心とした景観整備と、住民参加によるまちづくりにより、「北斎と栗の町」「歴史と文化の町」として全国から注目されています。

 同町にある造り酒屋I社の代表取締役を務めるSさんは、1993年に来日したアメリカペンシルバニア州生まれの外国人女性です。Sさんは、I社において和風レストランをオープンしたり、木桶仕込みの伝統的な酒造りの手法を復活させたりするなど様々な変革に取り組みました。その一方で、海外で評価の高い葛飾北斎の研究会を発足させ、1998年には小布施町で「国際北斎会議」を開催するために尽力し、また文化サロンやマラソンなどのイベントによる町おこしの企画も行いました。

 しかし、こうしたSさんの活躍の背景には、I社のグループ会社の社長が、Sさんの後ろ盾となって、Sさんに余計な軋轢を起こさせないように事前にアドバイスしつつ、Sさんを自由に活動させたことがあるといわれています。

 このように、イノベーション人材は新しい視点を持っているがゆえに、地域内の人々との間に摩擦を起こすことが予想されます。このため、イノベーション人材の視点を地域振興につなげるためには、摩擦を調整する調整者の存在が必要となるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)