◇年金保険への課税の現況
 相続税法では、年金は年金受給権として評価され、相続財産として課税されます。その後、年々の年金受給が始まると、雑所得として所得税が課税されていました。
 ただし、年金で受けとるのではなく、一時金で受け取ることにした保険金については、相続税がかかるだけで、所得税はかからないことになっていました。

◇年金と保険一時金の相違
 一時金なら非課税ということは通達に書かれていたのですが、その通達は、所得税法に、「相続により取得するものには所得税を課さない」という規定があったことに根拠を置いています。
 でも、法律には、年金の場合は課税できる、との規定はありませんでした。国側の解釈は、相続税と所得税の課税のタイミングが同時のもので、いかにも二重課税が明白なものに限定しての非課税規定、というものでした。

◇長崎からの告発
 税理士も、なんとなくへんだ、と思いつつ、所得税法の解釈について、国の言うことに流されていたところでしたが、長崎の相続未亡人とその関与税理士は、国の言うことに納得せず、相続課税後の年金所得に所得税をかけるのは二重課税であると主張して裁判に訴えました。
 裁判の経過は次の通りでした。
平成18年11月7日 長崎地裁 勝訴
平成19年10月25日 福岡高裁 敗訴
平成22年7月6日 最高裁 勝訴
 最高裁での二重課税禁止判決はニュースで大きく取り上げられましたので、ご存じのことと思います。

◇国税のすばやい対応
 最高裁の判決後、類似のケースには、過去5年分につき、更正手続により還付し、もっと古い分については、立法的に手当てすることを検討する、と財務大臣が即座に表明しています。
 この素早い対応は、判決への国税庁の真摯な姿勢のように見えますが、穿った見方からすれば、判決の及ぼす税制への衝撃を、年金問題だけに食い止めようとしている思惑にも思えます。なぜなら、相続税と所得税との二重課税は、年金だけのところにあるわけではないからです。