(「経営者の「対話力」が試される時代 その1」より続く)

 YKKの取組みは、企業にとって重要な資源であり、未来を創る担い手である社員に対して役員が直接働きかけ、「経営理念」「役員の経験」「会社の問題点」を語るという点で素晴らしいといえます。

 特に当社が優れているのは、単なる「研修」ではなく、「語らいの場」と称して、社員と対話し議論を行っているという点にあります。「理念浸透研修」自体は、決して珍しいものではありませんが、経営者自身に、「会社のあるべき姿」や「会社をこうしたい」という確固たる理念やビジョンがなければ、社員に向かって語ることは不可能です。また、対話を成立させるには、「社員の声に耳を傾ける」という力も求められます。更にYKKでは、36人に及ぶ取締役、執行役員、監査役が、社員と向き合うとのことですが、役員全員が経営トップと同じ体温で語ることができなければ効果が半減してしまいます。

 即効性という点においても、すぐに効果が表れるものではないため、社員と経営陣の一体感を高めるに至るまでには、相当な準備と粘り腰、パワーが必要でしょう。

 しかし、混迷を極める今こそ、社員に向かって経営トップが自ら発信していくことが重要ではないでしょうか。世界トップシェアの企業でさえ危機感をもって臨んでいるのです。ましてや中堅中小企業であれば、社員と経営層との距離が近い分、もっとダイレクトに社員に語ることができるはずです。

 今、まさに経営者の「対話力」が試されています。現場の最先端に至るまで、経営者自らが理念浸透させる努力無くしては、永続企業にはなり得ません。(了)

(記事提供者:アタックス 北村信貴子)