政府は3月22日、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」(消費税転嫁対策特別措置法案)を閣議決定し、国会へ提出しました。消費税率引上げの時期や増税の是非については、景気動向を踏まえて今年秋に最終決定することとなっていますが、政府はあくまでも消費増税を前提とした特措法案の成立を急ぎたい考えです。

 この特措法は平成29年3月末までの時限措置で、消費税率の引上げに際して、円滑・適正な価格転嫁を阻害する行為を是正するため「所要の特別措置を講じる」としています。消費税率の引上げに伴う小売店の負担を軽減するため、値札に税込み価格を表示する「総額表示」の義務を一時緩和し、「本体価格+税」などの表示も認めます。また、独占禁止法で禁じられているカルテルに例外を設け、中小企業が互いに申し合わせて増税分を一斉に価格に上乗せする「価格転嫁カルテル」なども認めるとしています。

 法案には、「消費税還元」などとうたった値引きセールを禁じる規定も盛り込まれています。「還元セール」などの安売り手法を認めない理由としては、大手スーパーなどが還元分を捻出するために、商品を納める中小企業に対して増税分の価格転嫁を拒否する恐れがあるからだとしています。
 立場の弱い中小企業への配慮は欠かせませんが、当事者である小売業界には「還元セール」の禁止に対する反発が広がっています。消費税増税が実施されれば、一時的にでも消費が冷え込むのは間違いないと予測する小売業界としては、自衛策として「還元セール」などに取り組もうとする企業・業界の自主的な経営努力にまで、国が規定を設けるのは行き過ぎだと主張。大手による中小企業への値引き強要については、公取委が監視を強化することで未然に防止できるとしています。

 また、小売業界には、禁止行為を具体的に示した「ガイドライン」が整備されていないことへの不満もあるようです。「消費税分は値引きします」という表現での安売り行為は「還元セール」に該当するのでしょうが、「本日、全商品8%オフ」はどうなるのかといった疑問について、明確なガイドラインが示されていないためです。競争が熾烈な小売業界にとっては、ライバル店の値引きセールが「セーフ」で、自店の安売りが「アウト」になってしまっては死活問題。禁止されていても「やったもの勝ち」ならば、ルール無視が横行して歯止めがかからなくなると危惧しています。
 これについて公正取引委員会や消費者庁では、特措法によって禁止される行為などの具体例を示した指針を作成し、周知徹底を図っていく方針だとしています。
<情報提供:エヌピー通信社>