では、親族内承継を円滑に行うには、具体的にどのようなことに留意すればよいのでしょうか。それを理解するために、歯車の製造、販売を行っているA社の事例をみていきましょう。

 A社は、現社長の祖父が個人創業した直後から、歯車を作ってすぐに納品する即応体制を売りにしてきました。創業者の頃には製品ラインナップを標準化した歯車の製造販売を開始、現在の「標準歯車のビジネスモデル」の原点は創業者の時代からできあがっていました。

 その後、現社長の父が二代目社長に就任、総合カタログの発行、営業所の開設など販路開拓を推進しました。三代目社長には二代目の弟にあたる現社長の叔父が就任しました。

 現社長は母親から常日頃「お前が跡取りだ」と言われて育ったこともあり、小学生の時から将来A社の経営者になることを意識していました。大学卒業後、米国の得意先での勤務を経てA社に入社、入社後は営業所勤務や工場の生産管理などの現場での経験を幅広く積みました。その後、営業部長の勤務を経て先代社長の下で常務取締役に就任しました。この間経営の基本を教わった後、39歳で四代目の社長に就任しました。
現社長は、標準品化した歯車だけを生産するのではなく、より顧客のニーズに応える必要性を感じて、社長就任後に計画生産で標準歯車を生産する工場と、顧客の個別のニーズに対応する工場の二本立てに区分するなどの経営革新に取り組みました。

 このように、親族内承継においては、後継経営者を早期に決定し、入社前に広い経験を積ませるとともに、入社後も社内の幅広い経験を積ませることが求められるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)