記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター

 

 

 資産に元本確定と価格変動があるなら、負債にも元本確定負債と価格変動負債があってよさそうですが、負債は買掛金や借入金といった契約によるものが主体になりますから、元本確定のものがほとんどです。中には、退職給付引当金のように、時価に応じて変動する負債もないことはないのですが、時価の変動にさらされている割合は資産より圧倒的に少なくなります。そこで、仮に負債のすべてを元本確定と考えると、価格変動資産の時価変動分はそのまま自己資本の増減に直結します。

 価格変動資産の価格変動分を考慮した自己資本を「実質自己資本」と呼びます。実質自己資本は会社の安全性を判断する重要な概念ですから、実質自己資本がどうなっているかを常につかんでおく必要があります。したがって、価格変動資産の時価の動向は常にウォッチしていなければなりません。

 価格変動リスクを避けるために、価格変動資産を持たないという選択肢もないではありません。価格変動資産を持たなくて収益をあげられるビジネスモデルならそういう戦略もとれますが、資産が価格変動するからこそ収益があげられる、と考えることもできますから、積極的に価格変動資産を取得する経営戦略があっても構いません。

 大切なことは価格変動リスクがある資産とない資産を識別しておくこと、そして価格変動資産については貸借対照表価格をそのまま信じるのではなく、常に変動している資産価格のおおよそをつかんでおくことです。その上で、自社の実質自己資本と企業体力を勘案して、価格変動資産をどれだか保有するかを含めた経営戦略を立てていくことになります。(了)