仮に、設備投資に必要な資金が50としましょう。資金調達にあたっての選択肢は現在所有している上場株式を売却して50のキャッシュを手に入れるか、銀行から50借り入れるか(借入金利は4%とします)の二つであるとします(税金は考慮しません)。

 株式の売却では50の株式売却損が発生し、借入金の借入では2(50×4%)の支払利息が発生します(支払利息は借入期間中ずっと存続します)。この両者の負担を経営としてどのように判断するかです。

 会計上の負担は、借入期間にもよりますが、支払利息より売却損の方が大きくなりそうです。しかし、経営として考えなければならないのはキャッシュフロー負担です。支払利息はキャッシュアウトを伴う費用ですので、「将来キャッシュフローの最大化」という観点からは株式の売却により資金調達をするのが正解になります。

 株式保有が正当化されるのは、今後所有する株式が値上がりして、現在売却するより将来売却するほうが多額のキャッシュフローが得られると確実に予想できる場合だけです。

 ここで述べた事情は、新たな資金調達の場合だけではなく、既存の借入金を抱えている場合も同様です。大切なのは、会計上の損得ではなく、将来キャッシュフローの大小です。そのためには、たとえ会計基準が原価評価を許容していても、経営として資産の時価は常に把握しておかなければなりません。その意味で、適切な企業行動のためには、会計も原価評価より時価評価のほうが相応しいといえます。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)