M&Aによる事業承継を行ううえでは、具体的にどのように留意する必要があるのでしょうか。

 それを理解するためにM&Aによる事業承継を推進した印刷業者A社(売り手企業:従業員数60人)とB社(買い手企業:従業員数360人)の取組をみていきましょう。

 A社は、小ロットの印刷を得意とする印刷業者で、面倒で細かい仕事もベテランの職人によって素早く作業できること、製本に至るまで一貫して行うことができることを強みとしていました。しかしA 社の経営者には親族内に後継経営者がおらず、親族外の従業員に事業を承継しようとしても、A社の借入金の多さが障壁となっていました。

 B社はA社の協力工場であり、小ロット印刷及び短納期生産について強みを有するA社が協力工場として無くなることに危機感を持ち、A 社の株式を取得し、A 社をB 社の100%子会社としました。

 A社の新しい社長には、B 社で海外現地法人立ち上げや、国内外の工場長を歴任した「人事・組織のプロ」である現社長が就任しました。

 現社長は、「何もわからない人間が上に来るのだから社員に不安を抱かせないようにしなければならない」「どんな会社にも核となる人物がおり、彼らを味方にする必要がある」という考えをもって組織改革に取り組みました。

 M&Aによる事業承継は、人心の掌握と従業員の特性を見極める能力を有した人物を買い手企業側が配置することが成功の決め手となるケースが多いです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)