では、親族外承継を円滑に行うには、具体的にどのようなことに留意すればよいのでしょうか。それを理解するために、視覚障害者用装置の製造を行っているA社の事例をみていきましょう。

 A社の現社長は2代目で、創業者である先代とは血縁関係はなく、創業者が病で倒れたことにより生え抜きの従業員から役員を経て社長に就任しました。当時、主力事業であった電子部品の価格競争激化などにより、事業環境が非常に厳しい状態でした。現社長は、電子部品の既存技術の転換によって生み出された視覚障害者用装置事業を育成し、主力事業への転換を図っていきました。

 まず、視覚障害者用装置の海外生産拠点として、日本人ゼロで生産を行うフィリピン工場を建設しコスト競争力の強化を図りました。その一方で、日本では設計、開発に注力し、装置の軽量化、小型化を推進していきました。

 現社長は創業者に対して安売りしてでも売上を伸ばすなど、悪く言えば「売上至上主義」の色あいが濃いという印象をもっていました。そこで創業者一族の関与を絶った上で改革に着手する必要があると考え、創業者一族の保有する株式については、金融機関から融資を受けて全て買い取りました。また、経営のビジョンを社内で公表し、情報を積極的に従業員へ開示し、従業員からの支持・理解の確保に努めました。
 
 このように、親族外承継においては、株式取得の資金確保や、従業員などの関係者への支持・理解確保などといった課題を克服していくことが求められるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)