新興国市場の立ち上がりを受け、日本の大手完成品メーカーは部品調達先を新興国などからの現地調達へとさらにシフトさせていると考えられ、そのことが大手完成品メーカーに部品を納入している中小企業の海外生産の動向にも影響を与えています。企業の海外生産は生産活動の目的でなされる海外直接投資の一形態ですが、製造業の海外直接投資は、その中身が時代を経て変化してきました。

 まず、1970年代~1980年代前半は、日米間、日欧間の貿易摩擦が海外直接投資に影響を与えた時代でした。欧米諸国は、対日輸入に対して様々な新しい貿易障壁を設けるとともに既存の障壁を高めていきました。こうした動きを受けて、日本の製造業者は米国や西欧諸国に海外直接投資を行い、これらの諸国で現地生産を開始したのです。

 1980年代後半になると、プラザ合意後の円高・ドル安などに伴う、海外生産による低賃金労働の利用といった要因が海外直接投資に影響を与えました。このためとくに賃金の低いアジア地域を中心に、労働集約的な生産工程や技術的にそれほど複雑でない生産工程の移転が行われたのです。

 そして1990年代以降になると、中国市場の拡大や、アジア地域の企業の能力向上、産業集積の進展が海外直接投資に影響を与えました。とくに2000年以降はアジアの中でも中国向けの海外直接投資の増加がみられました。

 こうした中、製造業の海外直接投資においては、新興国市場の拡大・ニーズの多様化などを背景に消費地立地が進むとともに、アジア諸国のインフラ整備や地場企業の能力向上を背景とした積極的な展開がみられるようになっていったのです。(つづく)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)