では、現在の日本の中小企業の海外直接投資においては、具体的にどのような取組みが行われているのでしょうか。アルミホイール及び自動車鋳造部品の製造販売を行うA社の事例で確認していきましょう。

 A社はアルミの材料開発、独自の鋳造技術、高品質の部品やホイールの技術開発力などといった総合的な技術力を強みとする企業です。アセアンにはフィリピンとタイに生産拠点を有し、中国にも2箇所に生産拠点を有しています。

 現在、国内拠点では、研究開発、技術開発の機能を配置し、軌道に乗せてから海外拠点に技術移転しています。しかし、A社は将来的には海外でも開発や試作を行うことを志向しています。また、国内拠点では高付加価値品の製造を主に行っていますが、「日本でしかできないものはなく、海外はタイムラグだけ」というのがA社の生産に対する基本的な考え方です。

 現状各海外拠点では、タイではアルミホイール中心、中国では鋳造部品の素形材中心など製造品目、製造機能に違いがみられますが、今後はそれぞれの拠点でアルミホイールと自動車鋳造部品の両方を製造したいという意向をもっています。

 中小企業の海外直接投資では、顧客企業の動向に配慮しつつも、進出後は自社の強みなどを考慮しつつ、現地市場の拡大や進出先での産業集積の進展などを踏まえた主体的な海外戦略に基づいて積極的に生産機能の国際的配置を図っているのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター