中小企業の事業承継においては、近年、従業員や主力販売先などから後継経営者を選定して事業を承継する親族外承継が注目されています。その背景には、中小企業を取り巻く環境が厳しさを増す中、親族であるか否かにこだわらず、経営能力に長けた後継経営者を広く求める企業が増えていることがあげられます。このような承継者は、新たな視点から企業の事業基盤を捉え直し、事業承継をむしろ契機として経営革新を遂行しているのです。

 親族外承継によって承継者が経営革新を遂行した事例では、①承継者が創業者一族から株式を買い取るケースと、②株式のほとんどが依然として創業者一族に保有され「所有と経営の分離」がなされているケースの両方が存在します。

 このように親族外承継において所有と経営の状況に違いが見られるのは、親族外の承継者と創業者一族との関係が大きく影響しているためであると考えられます。所有と経営が分離した企業においては、承継者と創業者一族との間に信頼関係が構築されている中で比較的円滑に事業承継が進められ、現経営者に経営が全面的に委ねられるケースが多いのです。このように創業者一族との間に信頼関係が構築されている場合は、所有と経営が分離した親族外承継の企業でも、承継者は経営革新を遂行できるのです。一方で所有と経営が一致する場合は、親族内での承継がうまくいかず創業者一族による経営が行き詰まりを見せている中、承継者が創業者一族の株式を買い取るケースが典型例としてあげられます。(つづく)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)