◆雨宮敬次郎の耳の働き
 雨宮敬次郎。山梨県出身で、13歳で仲買人を始めた甲州財閥の一人である。
 その敬次郎が、つぎのように語っている。
 「私はどんな商売を始めるときも、まず自分には、相応の知恵はないものと思い、どんどん人に尋いて知恵を集めることにしている。知恵を盗むんだ。
 盗むというと人聞きがよくないが、知恵を盗まれて怒る人間もいない。困る者もいない。
 特に知恵のありそうな人間には、自分はこんなことをやろうと思うがと話すと、向こうは得意になって、自分ならこうするとか、ああするといって乗ってくるものだ。
 このように蜜蜂のように少しずつ集めた知恵を、私の計画にまとめ上げると、これはもう立派な、雨宮方式の事業や経営計画になるんだ」
 いつかイトーヨーカ堂(現・セブンiグループ)の創業者、伊藤雅俊さんが言っていた。
 「わたしは、自分ではわからないことは、どんどん人に尋ねることにしています。すると相手は、喜んでいろいろ語ってくれます。尋くというのは、とても勉強になります」

◆耳が口より発達した人が、勝者になる確率は高い
 ある私鉄に飛び込んで、みずから命を絶った社長の、懺悔に近い話を聞いたことがある。
 「同じ商圏の中に、四国から上京したという、新しい住宅会社T社ができました。そのT社の社長は、挨拶を申し上げたいと腰を低くして、その社長を料亭に招きました。
 おしゃべりのその社長は上座から、ペラペラとしゃべりました。」
 いまや両社は大逆転。T社は地域ナンバー1。その社長の会社は空中分解直前。
 「口は一つ耳は二つ、しゃべることの倍聞くためだ」という格言がある。
 敬次郎は、「自分には、相応の知恵はないもの」と考えたが、現実には逆に、「その程度の知恵は自分にはある、いちいち人に尋かなくてもいい」と考える人が多いように思う。