◆雑誌社には隠し手があります
 よく経済・経営の月刊誌に、トップ営業マンが特集で紹介される。年に2、3回はあるようだ。なぜ何回も特集するのか。そのほうが雑誌が売れるからである。
 経営者は、「うちの連中とはどう違うか」と好奇心が働くし、管理者は部下の教育資料に買う者も少なくない。営業マンは、「自分とはどう違うか」と思って買う。
 しかし多くの読者は、雑誌社の隠し手や、隠れた実態には気付いていない。

 1、実際にページを開くと、営業マンが所属する会社は、中堅規模以上か有名企業が多い。
(会社の一括購入を狙っての編集。また、有名企業が読者の目をひくから)
 2、トップ営業マンがいる会社の営業成績が、業界でトップとは限らない。むしろ平均以下の場合も少なくない。ここまで考える読者は非常に少ない。

 トップ営業マンとして紹介された会社の中には、「なんだ、あのゴマスリ野郎が、トップなんだよ。あいつがトップなら、うちは全員トップじゃないか・・」という会社もある。
 例えば、かつてT自動車のU営業所(埼玉県)に、のちにメーカーの、営業部門の殿堂入りを果たした営業マンSくんがいた。訪問セールスが主流の頃である。
 だから先に紹介したような特集に、彼を外すわけにはいかなかった。何しろ名実ともに日本一の販売王だったから。彼は、「毎日1台を売る!」と宣言し実際に、年間365台以上を10年間売り続けたのである。
 しかし、会社の売上高は、なんと平均以下であった。現在もたいして変わりはない。

◆有名トップがいることと、会社の業績は別ものです
 先に紹介したT自動車U営業所の場合、彼が忙し過ぎると販売に支障が出るという理由で、トップのSくんには専属の女性秘書が2人つけられた。もちろん社長の配慮である。
 しかしこれが、仲間には徹底して不評だった。(当時は、客の車庫証明取りや、印鑑証明取りなどの雑用は、営業マン付随雑用だったから、売れば売るほど忙しくなった)
 「修理工場長に鼻ぐすり効かせ、他の営業マンの客の車を後回しにして、修理や点検を優先するSくんのワガママを、社長は見て見ぬふり。それに会議に遅刻しても、彼はお咎めなし・・」
 というわけでSくんが、いくら頑張って売っても、会社全体としては、“一将功なり万骨枯る”のような意識の沈滞した組織になり、会社成績としては底辺を這っていた。
 以上は具体例の一つだが、個人としてのトップがいることと、会社としてもトップか、という問題は別ものなのである。
 雑誌の特集に載った会社が、みんなそうとは言えないが、一般には、特定のトップ営業マンに肩入れし過ぎる会社には、組織力としては問題の多い会社が少なくない。
 以上のことを考えた上で、トップ営業マン特集の雑誌も読まないと、解釈ミスをするだろう。
 Sくんは講演会などで、「僕は修理工場にも、差し入れしたりして配慮する」と語ると、聞き手には絵になっても、身内にとっては、単なるワガママだったのである。
 うま過ぎる話には、ホンマ、ウラがあるもんですね!