●商圏は知り尽くしてこそ当り前
 “立地商売(ビジネス)”とは、地域に店を構えて商う商売のこと。
クリーニング、薬局、薬店、飲食、自転車屋など、いろいろ多彩である。
 こういう立地経営では、“商圏”というものがある。一般には、自店を基軸にしてコンパスで円を描き、「うちの場合の商圏は、まあ半径○キロ程度でしょうか」などという。
 幅の広い線路や車道が通っていると、商圏はこの線路や車道で分断されるのが一般的だが、そういうバリアを越えて、客がやって来るときは、店に独特の魅力がある場合が多いようである。
 ところで最近、A薬局とB花屋が、「もう経営継続はダメかも?」という状態にまで追い込まれてしまった。もう利益は、ほとんど出ない状態である。
 この両店にとって商圏以外の何物でもない、半径300メートルほどを見てみると、明らかにA薬局の競合店と思われるドラッグストアである、Wグループの支店が開店している。開店イベントの名残が、まだ紅白の幕にも残っていた。
 一方B花屋の回りも走り回ってみた。
 すると、あるホームセンターが、花や苗木類の展示販売コーナーを、大規模に拡張している。
それに対し、唖然としたのは、こういう店周情報を、まったくA、Bの両経営者が知らなかったことである。ビジネス感覚が、クレージーとしか言い様がない。
 いまさら持ち出すのも気がひきけるが、孫子の〈敵を知りおのれを知らば、百戦して危うからず〉は、立地商売の第一歩であるはず。そのためには商圏を自分の散歩コースみたいに動き回り、まるで自分の家の庭先のように知り尽くしていて当たり前である。つまり2人の経営者には、そういう着眼も行動もなかった、ということである。
●商圏内情報に精通する行動鉄則
 以前こんなことがあった。配給の時代からお米屋さん一筋で商いを続けた米屋さんが質問をした。
 「斜め向かいに生協の店が出店以来、うちの売上げが減った。どうしたらいいか?」
 そこで生協の様子を尋ねる。「売り場の広さは?」「どんな銘柄を売っている?」「値段は?」などと。するとこのお米屋さんは平然と答えたとのこと。
 「しゃくにさわるから、そんな生協には行きませんよ」愕然とする商売感覚だが、この人の場合は、販売免許と食管制度に守られ、競争を知らない人で、当然店は潰れたそうである。