●仮説の実行は、障害との闘いだ

 「すべての新発見や新事象というものは、仮説から始まっている」といってもいい。

仮説とは、「こういう道筋をたどれば、こういう結果に至ると思う」という未見の結果に、希望や期待を寄せることである。

象徴的な現実例としては、ips細胞(人工多能性細胞)でノーベル賞を受賞した山中伸哉教授の場合がある。山中さんは、最初こんな仮説を立てた。

 「人間のからだの全ての細胞は、心臓や肝臓とか、あるいは膵臓というように、さまざまなips細胞になる能力を秘めているのではないか?きっとそうではあるまいか?」

 ところがこの仮説を立証するため、いろんな実験をやるが、ことごとくうまくいかない。仮説を裏付ける結果が表れない。仮説・実験・失敗。再び新仮説。またもいい結果が出ない。

 その山中さんは語る。「考えることの多くが、いろんな仮説の集まりでした」

 失敗の連続で研究を放り出したいこともあったという。そんな経緯を経ての山中式発想法。

 「いいときは用心を 悪いときは希望を。やって、後悔してもいい。失敗は恥ずかしくない」

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 経営の現場にも、仮説はそのまま当てはまる。

 仮説とは前例がないから、相応の研究や深考力は欠かせない。



●勇気とねばりが欠かせぬ“仮説”の実行

「社長、今後の戦略・戦術に関して、何か仮説をお持ちですか?」

こう尋ねられて、「・・・」と返事が引っ掛かるようでは、やはり問題。

 説は姿が見えないから、多くの場合周囲の積極的支援は得られない。それどころか、馬鹿なことを考えとる・・・と非難さえ受ける。たとえば、物流革命をもたらした“宅急便”を開発した、ヤマト運輸の当時の社長、小倉昌男さん(故人)の場合、小倉さんの宅配への業態転換という仮説に対して、社内ですら協力どころか総反対だったと、小倉さんが書き残している。

 そういう意味で“仮説の実行”は、勇気とねばり、反骨精神と長期の見通しが欠かせない。