では、中小企業の後継経営者の能力形成にとって社外経験が具体的にどのように役立っているのでしょうか?印刷業A社の後継経営者の事例をみていきましょう。

 A社の現社長は大学卒業後電力会社に入社し、その後義父である先代社長からの呼びかけに応じ、電力会社を退社、後を継ぐつもりでA社に入社しました。入社直後はシステム開発室長という肩書で入り、その3~4ヵ月後には取締役に就任、先代社長が75歳となったのを契機に社長に就任しました。

 現社長は電力会社入社時に幅広い知識・経験を習得しました。それは、現社長がA社に入社後行った2つの経営革新にも現れています。

 一つ目は「環境経営」の推進です。A社は環境省の「エコアクション21」の認証取得に向けた全社的な取組みを、現社長が取締役の時に主導して進めていきました。

 二つ目は、「IT化」の推進です。環境経営を全社的に推進する過程で業務の効率化を図るため、営業、製作、印刷等の全作業を一元管理できる「案件処理一括管理システム」を構築しました。

 A社の現社長は、電力会社勤務という社外経験を積むことによって、入社後の環境経営やIT化推進などの経営革新遂行につながるアイデアや知識、新事業創出に関するマネジメントの経験などといった広範な知識や経験を得ています。

 このように、後継経営者が社外経験を積むことによって、広い視野や人的ネットワークだけでなく経営革新遂行のための知識・アイデアを習得することができるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)