「コンサルティングの過去を思い出すと、絶対に忘れられないことがある。」という人がいた。
 東京日本橋の西川産業(当時)の経営トップの豊生才次郎さんは人材発掘の達人で、課長以上との会話を大切にしていたようだった。
 そして、相手を観る着眼は、“仕事に知恵を使っているか、創意工夫をしているか”という点だった。“真面目に忠実に、仕事をしているか”というものではなかった。
 あるコンサルタントが一人のバイヤー(課長)のことを、豊生さんから聞いた。
 「きみが、“臨機応変の知恵が働くタイプ”と指摘した〇課長は、じつは仕入れ担当のバイヤーなんだ。
 当社はボランタリーチェーンだから、売り込み業者が大勢見えます。
 すると〇課長は、見本と仕切り価格の札をつけたサンプルを、無造作に脇に置いたまま次の業者と会います。同業者にもサンプルは見えます。すると業者は、この価格以上では提示できなくなる・・。一見無造作に見えるこのサンプル作戦、じつはこの課長の知恵なんだ。」
 最近は人材イコール稼働要員と解釈できるほど、人材という言い方が安易に言われている。
 しかし本来の人材とは、才知ある人、特に役に立つ人、才人、という意味である。
 従業員全体を指して、「人材」という言葉を使う人は、真剣に人材を考えている人とは思えない。組織を人材で武装する意識が本当に強い人は、豊生さんのような努力をするもの。
 ましてや、“人材とは大学を出た者”とか、“高学歴者”という意識の強い人は、たいした経営者ではない、と言ったら怒られるだろうか。
 作家の浅田次郎と宮部みゆき両者の対談を読んだ。
 「作家の世界では貴重な、数少ない高卒ですからね、二人とも・・」
 警察小説でヒットメーカーの佐々木譲さんも高卒で、本田技研の現場作業もやった人だ。
 人材とは学歴ではない。あえて言うなら学力が関係する。学歴は学力ではない。