◆真の人材とは“くせ者”なのだ
 「社長とは、オーケストラの指揮者である」と、何十年も前から言われている絶対原則だ。
 その指揮者が指揮する楽器(メンバー)は、みんな個性派のくせ者ばかりだ。
 時々刺激的な金属音でぶつかってくるようなシンバルがいるかと思えば、強い主張音で周囲にアピールするトランペットもいる。縁の下の低音で重厚感を醸し出すテューバという楽器もあれば、個性は控え目だが、音域の広い応用性の高いフルートもいる。
 ということで、人使いや人育ての上手な社長は、個性のある人間集団を使いこなせる。
 その個性は言い換えれば、“くせ”なのである。人材とは、もともと“くせ者”なのだ。
 社長自身も自分のことを振り返ると、かつては結構な“くせ者”ではありませんでしたか。
 ところがどっこい、自分好みの楽器だけを求めようとする指揮者、つまり社長がおいでだ。
 中には部下の個性を、陰で批判する社長までお見かけする。トップが下を批判するようになったら、社長自身が、「私の社長としての器(うつわ)は、限界を超えました」と、白状しているにひとしい。組織の将来は危険水域に入ったとみるべきだ。
 こうなったら、会社という組織は見かけだけ。実質は社長の名前を冠した、○○商店なのだ。

◆“ピグマリオン効果”による教育
 社員教育の要は、一人一人の個性や状況に合わせて指導するだけ。
 二つだけ例を紹介すれば、遅刻ぐせのある人間を、ぴたりと遅刻ストップ人間にできる。
 その方法は、遅刻絶滅キャンペーンの、推進チームのリーダーにすればいい。
 また、会議で対立する二人の幹部がいた。この二人を隣同士に座らせるよう工夫したところ、二人の対立は、ウソのように消えた。
 何も堅苦しい学問は要らないが、人を使う以上は、ある程度は“心理学的”な接し方は欠かせない。たとえば、“ピグマリオン効果”という育て方がある。
 ピグマリオンとは、ギリシャ神話に出てくるキプロス島の王様。ところが象牙の女神像に熱烈な恋をした。あまりに恋慕の情が強く、女神像は命を得て、ついに妻に迎えることができた。
 これが語源というか、意源であるが、部下の個別能力開発にとても役立つものだ。
 教育には、この“ピグマリオン効果”が使える。
 なお、自分好みのイエスマンで周囲を固めた場合、使いやすい集団は育つが、頼りになる組織は育たない。そういう社員に「きみはどう思うか?」と聞くがいい。
 社長がふだん云っている言葉が、そのまま表現を変えてはね返るだけである。
 そうなったら会社は、じり貧に向かって緩慢なる下降線をたどるだけである。