ある会社の、営業所を訪ねた。
 たまたまFAXが、どこからか届いていた。受け取った女子社員が、それを見ながらウフフと笑い、「ミヨちゃんらしいわ・・」と、つぶやいた。送信者は女友達らしい。
 もう少しくわしく紹介しよう。このFAXは、A営業所のミヨちゃんと呼ばれる女子社員が、B営業所の親しい女子社員に事務連絡をとった社内連絡のFAXだったのである。
 こうやってしばしば、事務連絡をとるうちに、ついでに私的な用件まで、同じFAX用紙で連絡し合うようになったのである。
 この日の連絡は、「今度の日曜そっちに行くから、夜一緒に飲もうよ」というものだった。二人とも酒好きらしい。
 この例でいちばんの問題点は、彼女たちにコスト意識が全然ないことである。FAXにかかる費用は、今更いうまでもなく、電話代なのである。活字や図表が増えるほど、スピードは落ちて費用がかかる。
 たかが○円じゃないか・・という問題ではないのだ。
 三菱財閥を起業した岩崎弥太郎は、側近の近藤康平(のちの日本郵船社長)が社用便箋を休暇届けに使ったといって、減俸処分にしたことがある。のちに岩崎は近藤を慰めた。
 「目に見えるムダは、手が打てるからいい。しかしはっきりと認識できないムダがこわい。たかが紙一枚だが、きみに犠牲になってもらったお陰で、最近組織が引き締まった」と。
 たかがFAXだが、組織のタガは小さな所からゆるむ。