ある病院での話。二人部屋である。

 一人の患者に見舞いが訪れた。

「どうも、お忙しいのにすみません・・」

 どうやら会社の上司らしい。そしてその上司はこう言った。

「きみが居なくても、みんながきみの分まで、カバーしているから、安心して病院で養生しなさい。」

 その上司らしい人が帰ったあとで、その入院患者は、寂しげにこう語った。

「ぼくは会社を辞めるつもりです。居ても居なくてもいい社員だからです。ぼくなんか居なくても・・」

 上司の一言に傷付いているのだ。

 その上司は、こう言うべきだった。

「きみが居ないと、車のオイルが切れたみたいで、職場の回転が悪くてねえ。なるべく早く復帰はして欲しいが、

 この際、みんなもカバーしているし、しっかり養生して・・」

あのものの言い方では、安心して養生どころか、退院しても自分の席がないかも・・と思えば、オチオチしてもいられないだろう。

 一言は人を生かし、また殺しもする。

 

 ところが一方に、こんなこともある。

 ある経営コンサルタント会社で、三十代の若手経営コンサルタントが、自宅で絶句した。というのは入浴中の洗い場で、血の小便が出て驚いた。急いで病院に行ったら、医者から聞かれた。

「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」

 そこでつい二日ほど前の、寒中の出来事を語った。

「東北に寝台車で出張したんですが、寝台車の暖房パイプが凍結し冷房列車に変貌し、震えながらの移動になりました」

 医者は途端に言いました。

「恐らくそれが原因でしょう。“特発性腎炎”といいまして、働き盛りに起こるんです。二、三日静養すれば治るはずです。」ということで、ドクターストップが出た。

 その翌々日に静養中の彼のもとに台湾から速達が届いた。

何で台湾から?誰が?と思いながら受け取ると「社長」からだった。

「神が与えた試練でしょう。ゆっくり休んで、日頃読めない本でも読んでください。それが将来クライアントの期待に応える糧になる・・・」

 彼の人生で、こんなことは一度もなかったから驚いた。「社長」は出張先の台湾で、東京の人事担当者から話を聞き、すぐにこのような行動をしたのだ。

 病院まで出向き、「きみの分は他の人がカバーしているから・・・」と言う無神経さとは雲泥の差である。

 なお、「社長」とは、タナベ経営の故 田辺昇一氏のことである。