二つの興味深い記事について。一つは、米国発のもの。もう一つは日本のもの。まず米国から。記事を引用してみよう。
 「私の税率は17%で私の秘書より低いのは不公平」-。米国で長者番付の上位に位置する著名投資家ウォーレン・バフェット氏が税制の矛盾を指摘するとともに富裕層への増税を訴えている。富裕層は税率が15%の株式配当や株の値上がりで利益を得ているため給与所得者より低くなる。これは不公正だというわけで、オバマ大統領が目指す富裕層増税への支援材料ともなっている。大富豪が自らへの増税を訴えるのは異例と言える…(時事通信社・舟橋良治)
 米国の二極化の事実は、経済学者達がよく指摘しているのはご存じの通り。ノーベル賞を受賞したサンデルも指摘し、社会的公正性の回復の必要性とともに、その道筋、処方箋について書いていた。日本でも神野先生が唱えていたのは紹介したとおり。
 片や日本の記事。
8月から「特別控除」廃止=生活保護改革、就労後押し―厚労省
時事通信 2月14日(木)2時32分配信
 厚生労働省は13日、生活保護受給者の年間就労収入から、1割までを経費として差し引くことができる「特別控除」を8月支給分から廃止する方針を固めた。その一方で、毎月の収入に認めている「勤労控除」の内容を拡充し、受給者が働く意欲を持てる仕組みをつくる。
 特別控除の上限額は、東京23区内在住の就労者が1人のモデル世帯で年間約15万円と決められている。しかし、約1割の自治体が導入していない上、制度の運用方法にもばらつきがあり、自治体から「制度が分かりにくい」「あまり効果がない」などの声が上がっていた。そのため厚労省は、制度の簡素化に向けて特別控除を廃止し、勤労控除と一本化することを決めた。
 現行の勤労控除制度では、同モデル世帯の場合、毎月の収入から8000円までは全額控除される。8000円超から約9万3000円までは17.2%、約9万3000円超から24万円までは7.0%と収入額が増えるほど控除率が下がり、24万円からは控除なしとなる。
 厚労省は、勤労控除を受給者の就労をより促す内容へと見直す。具体的には、(1)全額控除される収入額の引き上げ(2)控除率の統一(3)24万円の上限額の撤廃―などを実施する方針だ。
 保護費のうち食費などの生活費に充てる「生活扶助費」は、8月から15年度までの3年間で740億円(7.3%)削減する方針が決まっている。控除の見直しは、これと同時に実施する。
 また、控除制度以外に、生活保護を受け始めてすぐの受給者が積極的に就職活動を行った場合、必要経費として保護額を増額する新制度も8月から始める方針だ。 
 長いので簡単に説明しておこう。生活保護を引き下げる。それと同時に就労の後押しをする。内容は、就労して稼いだ場合、生活保護を下げる割合をさげるため勤労費控除を合理化して、可処分所得が今まで以上に増えさせる、ということなのだ。

 米国と日本における政府の富裕層増税の改革は、二極化の絶対的差異を少なくするか、少なくとも二極化の加速を下げるため、といった趣旨で社会的公正を確保しようというところにある。社会の絆を維持するためには、様々な統計に着目しても妥当な目的だと思われる。生活保護についても苦しい財政下で苦渋の選択。勤労を促す制度設計を目指すという意味は間違いなくある。とはいっても、生活保護費の引き下げ。富裕層増税をある程度しっかり実施してから、行うのでなければ二極化は拡大してしまうおそれがある。景気回復が本格化していない現在、生活保護の引き下げは最低限の生活を保障するといった憲法上の理念からすると早すぎるといった危惧を持たざるを得ない。

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